使命感から広がる大家族主義経営
国民の4人に1人が65歳という、超高齢化社会を迎えつつある日本。そんな現代の日本に必要とされている仕事である介護職。にも関わらず、慢性的な人財不足で頭を抱える介護事業所がたくさんあるのが現状です。
有限会社はるかぜ様(ケアサービスはるかぜ 堺市西区)は、創業13年目で、デイサービス、訪問介護、訪問看護サービスをされており、スタッフが現在35名。一般的に離職率が高いとされる介護業界で、女性を積極的に採用され、好業績へとつなげていらっしゃいます。介護職員がイキイキと働く職場とは、どういう職場なのか。現役のケアマネージャーとしても活躍をされている三浦さんにお伺いしたいと思います。
ー 現在入社10年目の三浦さんにお伺いします。三浦さんや満薗社長がされている、ケアマネージャーとはどんなお仕事ですか?
三浦さん:『ケアプランを作成して、利用者さんやそのご家族と、介護サービス事業者を繋ぐお仕事です。利用者さんの生活環境や、家族構成、心身の状態などを考え、それぞれの利用者さんにとって、一番良いケアプランが何なのかを考えて、介護サービス事業者と利用者さんやご家族との間に入って連絡調整をします。また、心身の状況や家族の事情など、状況に変化がないかを管理するという仕事です。』
ー 「介護が必要な人」と「介護サービス」を繋ぐという大切な役割を担うのがケアマネージャーという事ですね。三浦さんがそもそも「介護」というお仕事を選んだきっかけは何ですか?
『中学時代の恩師の勧めもあって、介護の道へ進むことになりました。そして、祖父が大好きだったので、いつか祖父の介護をしてあげたいという思いもあったと思います。すごく個性的で、面白い祖父でした。戦後の慌ただしい中、19歳という若さで大人に紛れて色んなことにチャレンジした話を聞くのが好きでした。祖父は、5年前に様態が悪くなり、最後は、弊社の在宅サービスを利用しながら、家族や孫たちに囲まれながら看取ることができました。』
ー この仕事をされる上で、特に大切に心掛けている事はありますか?
『今後の介護サービスの基本となるケアプランを作るうえで、必ず利用者さんが納得するまで時間を費やすようにしています。利用者様自身で選んだ介護サービスを、納得して使ってもらえる事が一番大切だと思っています。なので、利用者さんが納得できるまで何度も説明をします。「どうすれば、納得してくれるだろうと」考えている時間が楽しいです。そして、きちんと理解し納得してくれた時の達成感は大きいですね。』
ー 何度も利用者様とのコミュニケーションを重ね、今までの経験や知識から、その利用者様にとって本当に必要な介護サービスを判断する。そして、利用者様にとって最適なケアプランを作ることが、利用者様のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)つまり、「生活の質」の充実へと繋がっていくということなんですね。利用者様の人生の晩年のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は、ケアプランに大きく左右されると言っても過言ではないかもしれません。これこそが、「生活の質」だけでなく「人生の質」までを高めるという、ケアマネージャーの使命なんですね。ケアマネージャーという仕事をして、良かったと思うのはどんな時ですか?
『利用者様から感謝の言葉を頂いた時ですね。担当していた利用者様のご家族の方に「三浦さんに担当してもらえて本当によかった」という言葉をかけてもらえた時は、本当に嬉しいです。担当し始めた当初は、しんどそうにされていた方も、コミュニケーションを深めていくうちに笑顔が増えてくる・・・。この瞬間も嬉しいです。人生の先輩である利用者様から学ぶこともたくさんあるんです。だから、お話をしている時間が好きです。一緒に働くメンバーは「何時間も戻ってこないなぁ」と思われているでしょうね(笑)』
ー コミュニケーションを深めていくうちに、本当の家族のような信頼関係が生まれてくるのですね。逆に、この仕事をして辛いと思ったことはありますか?
『担当していた利用者様が亡くなった時ですね。「私が担当でなければ、この利用者様はもっと長生きできたのでは・・・」と自分の無力さを痛感し、悔しくて辞めたいと思ったことは何度かあります。』
ー 使命感や正義感をもって介護職に携わるからこそ、ぶつかる壁なんですね…。そんなときでも、仕事を続けてこられたのはなぜですか?”
『辛いことを吐き出す環境があったからですね。社長の教えで、仕事が思い通りにうまくいかなかった時や、つまづいててしまった時に、その気持ちのモヤモヤを家まで持ち帰らずに、スタッフ同士お互いに吐き出すようにしています。同じ経験をしてきた仲間だからこそ、辛い気持ちを理解してもらえる。そんな環境、そして仲間がいてくれることは大きいです。』
ー 満薗社長にもお話を伺いたいと思います。高齢者の介護に関わる上で、避けて通ることができないのが利用者様の最期に直面する場面。そんな時スタッフの方にどのような言葉を掛けられますか?
満薗社長:『何度経験しても、利用者様の最期は本当に悲しいものです。だから、担当者が利用者様の死を経験し、辛い思いをしている気持ちは理解できます。だけど、「死は終わりじゃない」といつもスタッフに話をします。「一人一人、違う生き方があり、みんなそれぞれ違う死がある。利用者様の死を通じて、<生き方>や<逝き方>を学びます。利用者様と関わり、亡くなられたことで、悲しい気持ちだけで終わらずに、そこで学んだことを、残されたご家族や他の利用者様、そして自分自身の「生」に繋げて欲しい。」と話をします。』
『利用者様が亡くなった時、必ず関わったスタッフをお通夜へ連れて行くようにしています。はるかぜでは、利用者様が良い顔をしている写真をご家族にお渡ししています。その写真が遺影として使われている事もあります。ご家族の方から、はるかぜのデイサービスをとても楽しみにしていたという事を聞き、ご家族に「本当にありがとう。」と感謝された事が、スタッフの喜びへと変わり、また成長へ繋がると考えます。』
ー 介護の現場での「ありがとう」は、他の業種での「ありがとう」とは重みが違うように感じました。そして、辛い経験と真摯に向き合い、「最期の瞬間まで価値あるサービスが提供できるのか?」というホスピタリティの追求をする事が、成長へと繋がっていくという事なんですね。訪問させて頂くと、スタッフの皆様が、いつも笑顔が絶えない印象がありますが、皆様なぜそんなに元気なのですか?
三浦さん:『「はるかぜ」は1階がデイサービス施設となっています。毎日デイサービスの利用者様がいらっしゃるのですが、この利用者様とスタッフが本当の家族のように仲良く、いつも笑顔が絶えないアットホームな雰囲気です。そんな笑顔の絶えない雰囲気が、「はるかぜ」全体に伝わり、一人一人の活力になっていると思います。』
ー 利用者様を本当のご家族のように思われる皆様の気持ちが、「はるかぜ」全体の雰囲気を和やかにされているのですね。現在中学生と小学生お子様がいらっしゃる三浦様ですが、仕事と育児との両立は難しくないですか?
『社長が率先して子供の事を優先して考えてくれるので、お互いに、「子供がいる環境をフォローしあう」という社風ができています。利用者様に迷惑が掛からないよう、スタッフの子供さんに何かあった時は、早く帰る人を、周りがサポートします。「はるかぜ」は、スタッフがほぼ女性です。子育てを経験してきた、または子育て中の女性同士だからこそ、順番にフォローし合える環境ができています。お互いの家族が、本当の家族のような存在になっているのだと思います。』
ー お互いに悩みを共有し困ったときにサポートしあえる「仲間」であり「家族」という存在って良いですね。満薗社長にとって、利用者様や社員の皆様はどんな存在ですか?
満薗社長:『利用者様やその家族、社員そしてその家族も、共に歳を重ねて行きたいと思っています。介護の期間が長くなると、一番つらいのはご家族なんです。だから何よりもご家族を支えてあげる事が大切だと思います。病院でなく住み慣れた家で看取ってあげたいと思うご家族を、私たちは全力でサポートをします。また、社員の子供のことも、社員だけの問題ではなく「はるかぜ」全体の問題として捉えるようにしています。協力できる環境づくりをすることで、子育て中の社員も働き続ける事ができるんです。』
ー 社長にとって、「はるかぜ」に関わるみんなが「家族」という思いがあるから、社員にとっても利用者様や働く仲間が「家族」のような存在になっているのですね。三浦さんは、満薗社長が独立される前にお勤めをされていた頃からのお付き合いとの事ですが、三浦さんから見て満薗社長はどんな方ですか?
三浦さん:『とても気さくで、私たちスタッフにも利用者様にも優しくて謙虚な人なので、外に出るまでは分からなかったのですが、実は凄い人だと感じています。地域との繋がりを大切にしている満薗社長は、堺市西区のこの地域では有名なんですよ。他の介護施設や医療機関等の幅広いネットワークもあり、講演会を依頼されることもあるんです。』
ー 満薗社長は、地域とのつながりを大切にされ、地域の皆様からの信頼も厚いようですね。地域とのつながりを大切にされるきっかけをお聞かせください。
満薗社長:『以前は、介護保険制度や介護サービスが充実していなかったので、自分のネットワークがないと利用者様に必要な介護サービスの紹介が出来なかったんです。だから自分達が利用者様の為にできる事を増やすために、ネットワークを広げていこうと思ったのがきっかけです。今では、そのネットワークを使って、利用者様にとって本当に良い介護サービスを提供する事ができます。』
ー 社内外を問わず地域全体で「はるかぜ」という会社を作っておられるという訳ですね。最後に、今後は「はるかぜ」をどんな会社にしていきたいかを聴かせていただけますか?
満薗社長:『「はるかぜ」という社名には、どんな時でも困っていて助けを求めている人の心に「春のような暖かい風を届けたい・・・」という思いが込められています。利用者様のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高める為には、利用者様にとって今一番何が必要なのかという事を見極める事が大切です。その為に利用者様やそのご家族としっかりコミュニケーションをとる事を心がけ、自分が築いてきたネットワークを使って、助けを求めている人のお手伝いができる。そんな会社にしていきたいと思います。』
ー 少子高齢化の現代、地域との関わりが欠かせなくなっています。「はるかぜ」が愛される理由は、そこにあるのだろうと私は思います。社員や社員の家族だけでなく、利用者様やそのご家族、地域の方々も含め、「はるかぜ」に関わるすべての人たちが、大きな家族のようになれる組織づくりを「はるかぜ」は実践しておられます。また、その場所で働く中で、社員の皆さんがご自身の使命をお一人お一人きちんと認識されています。そして「はるかぜ」と共に成長し、利用者様を含めた地域全体に貢献する事で、仕事への誇りを持っているからこそ、皆様がイキイキと働かれていらっしゃるのではないでしょうか。
他人事を、いかに自分事として捉えられるか。職場の仲間の事を、いかに自分事として捉えられるか。社員の事も含め、会社や地域全体に関わる全ての人達の事を、いかに他人事でなく自分事として扱えるかが大事であると、今回のインタビューを通じて学んだように思います。ご協力ありがとうございました。
editor:礒田 翼
■ ケアサービス はるかぜ
大阪府堺市西区草部236番地
■ エレメンツ社労士事務所
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社労士 礒田 翼(いそだ つばさ)